移転価格の事前確認制度とは?
移転価格税制移転価格の事前確認制度(Advance Pricing Arrangement, APA)とは、移転価格課税に関する納税者の予測可能性を確保するため、納税者からの申出に基づき、申出対象となった国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法等について、税務当局に事前の確認を行う制度です。
APAは、税務調査とは異なり企業の自主的な申請によって、自らの移転価格及びその算定方法について税務当局の審査を受けるものであり、税務当局とより柔軟な議論や交渉ができる可能性があります。
事前確認制度(Advance Pricing Agreement, APA)
事前確認(APA)には、納税者を所轄する税務当局のみに対して確認を行うユニラテラルAPA、納税者と国外関連者双方の税務当局に対して確認を行う2国間のバイラテラルAPA、さらに国外関連取引が3カ国以上にまたがる場合に納税者及び複数の国外関連者の税務当局に対して確認を行うマルチラテラルAPAもあります。これらのうちバイラテラルAPAは2ヵ国の税務当局間における相互協議、マルチラテラルAPAは3ヵ国以上の税務当局間における相互協議によって合意が形成されます。
相互協議を伴うため時間を要するバイラテラルAPA・マルチラテラルAPAよりも、一方の税務当局に対しての確認のみを行うユニラテラルAPAの方が短期間で取得できますが、国際的二重課税防止の観点からは、一方の税務当局だけでなく相手国の税務当局にも確認を取るバイラテラルAPAもしくはマルチラテラルAPAが望ましいといえます。
ユニラテラルAPA
ユニラテラルAPAは、取引を行う一方当事者の税務当局に対して確認を取るものであり、税務当局間の相互協議を伴いません。そのためバイラテラルAPAやマルチラテラルAPAに比べて、短期間でかつコストを抑えて取得することが可能です。
しかしながら、一方の税務当局が確認した内容に、他方の税務当局が従う義務はないことから、ユニラテラルAPAを取得しても相手国側の移転価格課税リスクが残ってしまいます。
したがって、ユニラテラルAPAは、取引を行う一方の国の移転価格課税リスクが高く、他方の国の課税リスクが高くないと見込まれる場合には有用といえますが、そうでない場合はやはりバイラテラルAPA(もしくはマルチラテラルAPA)を取得すべきと考えます。
なお、日本企業の取引相手国が中国や東南アジア、中南米等の新興国にシフトしてきたことに伴い、バイラテラルAPAの相手国も新興国が増加してきています。この場合、相手国によっては、相互協議が合意に至るまで長期間を要したり、合意に至らず決裂したりという事態も散見されています。こういったケースにおいては、ユニラテラルAPAの取得が現実的な選択肢と言えるかもしれません。
バイラテラルAPA
バイラテラルAPAは、納税者と国外関連者の双方がそれぞれの税務当局に対して申請を行い、両税務当局間で協議を行ったうえで、対象取引について将来の一定期間における移転価格及びその算定方法について合意を形成する制度です。
バイラテラルAPAは取引の両当事者の税務当局に対して確認を行い、両税務当局の合意を取得するため、将来の一定期間における移転価格課税リスクをゼロにすることができます。
他方、税務当局間の合意形成には、先進国間でも平均2年程度、新興国との間では3年程度を要することが通常であり、合意までに要するコストや時間もかさみます。また、前述の通り、特に新興国との間では協議が決裂に終わる可能性もあり、申請したから必ず合意が取得できるとは限りません。
そのため、バイラテラルAPAは取得できればその効果は大きいものの、申請を行うかどうかは、取引の規模や課税リスクの多寡と、取得に要するコストや時間とを勘案して判断するのが望ましいといえます。
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